牛肉の粗脂肪含有量を予測
4月の記事なので少々古いが、これは面白いので保存!
牛肉粗脂肪含有量 簡単に予測 携帯分光装置を活用
宮崎大学の研究グループ日本農業新聞 2013年4月11日付転載(改行等加えた)
宮崎大学大学院農学研究科の入江正和教授の研究グループでは、牛肉のオレイン酸含量などの脂質を評価する従来の分光装置で、粗脂肪含有量も調べられることを明らかにした。
現在、食肉の脂肪を正確に測るには、肉を処理して実験的に調べる必要があり、手間と時間がかかる。装置なら食肉にあてるだけで分かるため手軽で、肉質評価の手段の一つとして普及する可能性が高いとみる。
用いるのは、相馬光学(東京都日の出町)などが開発した携帯型の近赤外分光装置。食肉に光を当てて反射する光の種類を調べ、オレイン酸などの一価不飽和脂肪酸などの成分含有量を予測する。
成分の実測値が分かっている食肉と、反射光の関係を事前に数多く調べ上げ、傾向を数式(検量線)としてコンピューター内に蓄積、予測の精度を高める仕組みだ。
研究グループは、同じ原理で粗脂肪含有量の実測値と反射光の検量線を、胸最長筋、僧帽筋、背棘(はいきょく)筋の3部位で作成。粗脂肪含有量はこれまで試していなかったが、高い精度で予測できることを確かめた。
検量線の作成には分光装置に加えソフトが必要。ソフトは高価だが市販されており、所有する自治体もある。
入江教授は「黒毛和種では牛肉内の脂肪含有量はこれ以上高めない方向にあり、脂肪含有量を数値で把握する意味が大きくなっている」と指摘。
各地で生産の機運が高まる赤身肉でも、「ヘルシーさを消費者に訴えたり、ブランド化したりするには数値で示すことが有効だ」と話す。
入江教授は以前拝聴した講演でも
「黒毛のサシは行く着くところまで行ってしまった」と話されていた。
何度も書いてきたことだが、サシ過剰・偏重との意見はあちこちで聞く。
しかしながら、現在の格付基準ではサシが多ければ多いほど高値がついてしまう状況。
高値が付くのなら、生産者はサシを入れる事に力を注いでしまう。
牛肉の格付というのは、
「食肉取引の中で同じ品質の物は全国どこでも同水準の価格で取引されるべきである」という理念に基づいて、一定の基準を設けたもの
であって、取引上、やはり必要不可欠なものであることは間違いない。
相対取引であっても食肉販売会であっても、東京や大阪などの大都市の格付けによる価格が地方での取引にも反映されるのだから、田舎の生産者が買い叩かれる事は、まず避けられるわけだ。
なんらかの「目安・ものさし」は、牛肉の取引において欠かせない物なのだ。
ある小売りの方に「これはA4等級の肉です、と書いておくと、明らかに何も書かない物より売れ方が違う」という話を聞いた。
ビールの宣伝で「A5ザブトン!」と、スーパーか何かの店頭の肉を取り合うシーンも見られる。これは、「ちょっと豪華にやりたい」と思った時にA5ランクの牛肉を使いたいという消費者の気持ちを代弁したものかもしれない。
要するに、消費者の側も牛肉を買う際に「何らかの目安・基準」を求めているという事ではなかろうか?
ところが、現在の格付の最上級であるA5等級BMSNo.12の牛肉の多くは、脂肪含有率が50%を超えている。
肉のうまみを感じる脂肪含有率は30%、せいぜい40%で、50%を超える物は「脂のくどさを感じる」と不評であるとの官能検査の結果も出ている。
枝肉の取引上の最高ランクの「A5等級BMSNo.12の牛肉」が、必ずしも消費者が美味しいと感じる肉では無いとも言えるのだ。
この状況を変えるには、格付けの基準を変えるのが一番手っ取り早いんではなかろうか?ってことは、このブログでも何度も書いてきた。
飽くまで個人的な考えだが、
・5等級はBMS No.10まで
・脂肪含有率が50%を超える物は4等級に格下げ
この位やらなきゃ、現在の「サシ過剰・サシ偏重」は変わらないのではないか。
ま、勝手な考えではあるんだけれど、これ位の基準変更が無ければ、相変わらずのサシ偏重主義から抜け出ることは出来ないと思う。
少なくとも生産者自らが「5等級の肉って旨いか?脂っこくて食えないよな」なんて言ってる状況からは抜け出ることができると思う。
(自分が作ってる「格付の最上級の肉」を自分で旨くないって言ってる現状は、絶対変だ!もちろん、脂の質によって感じる旨味には違う物があって、生産者はもっと脂の質にも気を配るべきだと思うのだけれど)
今回の入江教授の粗脂肪含有率の計測は、牛肉の新たな基準を示してくれるものであるのかもしれない、なんて期待をしているのだが・・・・。
この牛肉は粗脂肪含有率が20%以下でヘルシー志向の方には最適です。
これは粗脂肪含有率30%で牛肉の柔らかさとうまみを兼ね備えて、すき焼きに最適な牛肉ですよ!
ビーフカツレツには粗脂肪含有率10%のこの肉を!
そんなセールストークが消費者にすんなりと受け入れられるようになれば、消費者もTPOに応じて好きな肉質の牛肉を選べるようになれば・・・、生産者としても色んな可能性を探れる。
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コメント
この記事へのコメントは終了しました。
はじめまして
いわゆる「量販店」で肉を扱う者です
「目安・基準」のお話、大変興味深く読ませていただきました
5等級が最もうまい!といえないと強く思う私も、5等級に最高値を付けて
販売している…自己矛盾もはなはだしいと思っています
生産農家の方も「サシ偏重」を感じておられることは
同意見の方々もいるとのことで心強く思います
脂肪の量を定量的に測り、一つの基準になれば確かに面白いですが、
「赤肉のうまさ」をどう表現するか
が難しい。
等級・部位など選択肢がたくさんある中「目安・基準」をどうするか。
悩ましい問題です
BMSが高すぎるのを等級下げるのは面白いですね
水分含有量の低さ・同一部位で筋繊維の細さ・香気成分の量 とか
なんとか定量的に脂肪交雑以外の評価基準を探すというのはどうでしょう
また面白いブログ、是非読ませていただきます
投稿: こうたろ | 2013/06/13 16:00
こうたろ様
コメントありがとうございます。お返事が遅くなり申し訳ありません。
お肉の美味しさなんて感じ方は人それぞれだし、
食べてる場所や仲間や、そういったシチュエーションでも変わるだろうし、
黒毛和牛には黒毛の、褐毛には褐毛の、交雑には交雑の旨さがあるし、
同じ個体の肉でも部位によって感じる美味しさの種類も色々だし、
一言では言えない事の方が多いのですが、
ただただ最近の「サシ偏重・過剰」は変だと思うのです。
ブログの中にも書きましたが、生産者自身が
「A5ランクの肉なんて食えないよねwww」なんて言ってることが
一番腹が立つというか・・・。
(そーゆー事をいうヤツに限って、あまり肉を食べてなかったりするので余計に)
ですから
>「赤肉のうまさ」をどう表現するか
>が難しい。
>等級・部位など選択肢がたくさんある中「目安・基準」をどうするか。
>悩ましい問題です
このご意見は大変面白いと思いつつ、そこまでは私は考えていません。
先ずは「サシ偏重・過剰」から脱却できるのが大事かなと思ってます。
そのために、生産者がサシのみを追求しなくてもきちんと価格に反映される
「なにか」が出てくるのを期待しながら待ってるところです。
その何かが「オレイン酸数値」や「粗脂肪含有量」かもしれないし、
「和牛香」や「グルタミンの数値」かもしれない。
とにかくBMS以外の「なにか」に生産者の意識が向かうようになるのは
とても有意義な事だと思っています。
>水分含有量の低さ・同一部位で筋繊維の細さ・香気成分の量 とか
>なんとか定量的に脂肪交雑以外の評価基準を探すというのはどうでしょう
面白いです!!
このあたりを色々な方も研究して下さっているのでしょうが、
何らかの評価基準を使うのに高価な機械や試薬が必要だったりして、
それを生産者や消費者が負担することになれば、ちょっと困るかな・・・
とも感じますが・・・。
お肉を扱う仕事をされてる方ならではの御意見、大変参考になります。
また色々教えて下さると嬉しいです。
投稿: センム | 2013/06/14 21:43