口蹄疫・宮崎日日新聞「新生の分岐点」1 飼育密度
※宮崎日日新聞が口蹄疫終息1年の宮崎の畜産界の現状を連載したものを転載
(改行等、加えてある)
新生の分岐点1 飼育密度
適正化と経営 両立を(2011年8月27日付)
17万4375頭---。口蹄疫の「爆心地」である川南町(370農場)で殺処分前に飼育されていた家畜の数だ。県内総頭数の14%に当たり、家畜と農場の密集が爆発的な感染の下地となった。国や県の検証委員会の報告書は、密集地域におけるリスクの高さを問題視。適正な飼育規模の検討を提言してきた。
県は農家や団体、防疫の専門家らを集めた交換会を2回開催。10月までに1頭当たりの飼育面積など独自のガイドラインをまとめる方針を示している。
一貫して増頭政策をとってきた国内において適正な飼育規模を議論するのは前例のない試み。県畜産・口蹄疫復興対策局の永山英也局長は「農家の技術や設備に差があり、単純に1頭当たりの面積だけで判断できるものではない。また、畜産経営が持続可能な範囲のものでなければ意味がない」と、その難しさを口にする。
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防疫と生産性の両立-。口蹄疫終息後に経営を再開した農家の思いは複雑だ。川南町川南の養豚農家柳川勝志さん(40)は現在、殺処分前の9割に当たる母豚約90頭を飼育。農場や家畜が密集するリスクは理解しているが、「経営を考えれば将来的には頭数を増やしたい」と胸の内を明かす。
県が開いた意見交換会でも農家側からは頭数制限に否定的な意見が目立った。
農家だけで判断できる問題でもない。宮崎大学農学部の末吉益雄教授(家畜衛生学)は「銀行から新たに融資を受ける場合、母豚や母牛の頭数をどこまで増やすかが重視される。これでは地域の飼育密度は落ちない」と指摘する。
地域の飼育密度が変わらないまま畜産が続けられるのであれば、「地域は『運命共同体』という意識でこれまで以上に防疫を徹底しなければならない」と末吉教授。「口蹄疫の再発に備え、ワクチン接種のタイミングなどについても議論を重ねるなど、相応の覚悟が必要だ」と語る。
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県はガイドラインについて「強制力はなく、農家を指導する際の指標」と位置付けており、実効性を担保する仕掛けが求められる。ガイドラインに準じる農家への補助率引き上げなど政策誘導も考えられるが、永山局長は「農家への指導以外にどんな方法で浸透を図るかは、次の段階。ただ、出産額の増加や増頭に重点を置いてきた政策は変えるべきではないかという思いはある。」と話す。
県の獣医師として30年以上勤務してきた県畜産試験場の税田緑場長は、飼育規模の適正化と経営安定は両立可能と考える。1年1産を目指している県内の和牛の分娩間隔が平均で420日程度であることを挙げ「分べん間隔を20日短縮できれば母牛を増やすより効率的。頭数を減らしてロスも減らす。適正規模でも経営は成り立つ」と訴える。
× × × ×口蹄疫終息から1年。畜産新生に向けた取り組みは緒に就いたばかりだが決して順調とは言えず、成否を左右する最初の分岐点を迎えている。現状を報告し、課題を探る。
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